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リピーターを増やす“おもてなしの型”設計:属人的接客からチーム接客へ

なぜ、リピーターが増えないのか

「リピーターがなかなか定着しない」

「口コミ評価は悪くないのに再訪が少ない」──

そんな悩みを抱える宿泊業経営者は多いでしょう。

実は、リピート率を左右しているのは“サービスの良し悪し”ではなく、
「一貫したおもてなし体験が提供できているか」という点です。

お客様が宿を再訪する理由の上位には、必ず「安心感」と「信頼」が挙げられます。
つまり、「前回と同じように温かく迎えてもらえた」「自分の好みを覚えていてくれた」と感じる体験こそが、リピーターを生み出します。

ところが、多くの宿ではこの“おもてなしの再現性”が欠けています。
なぜなら、接客が個人のスキルや経験に依存している=属人的だからです。

本記事では、スタッフ個々の接客力に頼らずに、
宿全体で「おもてなしの型」を設計し、顧客データを活用して“チームで接客する仕組み”を構築する方法を詳しく解説します。

属人的接客が引き起こす“おもてなしのムラ”

経験値の差がそのまま“接客品質の差”になる

宿泊業の現場では、ベテランスタッフと新人スタッフの対応差が顕著に出ます。
たとえば、

  • ベテランは常連客の名前や好みを覚えていて自然に気遣う
  • 新人はマニュアル通りの対応にとどまり、心の距離が縮まらない

この“接客のムラ”は、お客様にはっきりと伝わります。
「前回の担当者は覚えてくれていたのに、今回は違った」──
こうした些細な落差が、リピート率を下げる最大の要因なのです。

“個人依存”の危険性

属人的接客は、スタッフが退職・異動するとすぐに崩壊します。
「〇〇さんがいたから通っていたのに、いなくなったからもう行かない」
というケースは、全国の旅館やホテルで後を絶ちません。

一人のスター社員に頼る経営は、短期的な満足を生むが長期的な信頼を失う構造です。
組織としての“おもてなしの一貫性”を作る仕組みが必要なのです。

「おもてなしの型」とは何か

“マニュアル”ではなく“再現性のある体験デザイン”

「型」と聞くとマニュアル化を想像しがちですが、
ここでいう“おもてなしの型”とは、「お客様が心地よいと感じる体験を再現するフレームワーク」のこと。

マニュアルが「行動の手順」を示すものだとすれば、
型は「意図と目的を共有するための設計書」です。

たとえば、

  • チェックイン時の第一声は「おかえりなさい」を基本にする
  • 朝食後には「お味はいかがでしたか?」を自然に添える
  • リピーターには「前回と同じお部屋をご用意しました」と伝える

これらは単なる接客フローではなく、
“宿としての心の在り方”を全員で共有するためのルール=「おもてなしの型」なのです。

顧客データを活用して“型”を進化させる

おもてなしの型を機能させるうえで不可欠なのが、顧客データの共有と活用です。

1. 顧客データを「見える化」する

宿泊履歴、食事の嗜好、アレルギー、記念日、会話内容──
こうした情報をスタッフ個人の記憶に頼らず、
CRM(顧客管理システム)や共有アプリに記録して“宿全体の知識”に変えます。

💡 例:Googleスプレッドシート+チャットツールでも可。
「前回はお子様が偏食で…」「朝はコーヒー派」などを簡単に残す仕組みを整える。

これにより、誰が対応しても同じレベルの情報を持って接客できるようになります。

2. データの“更新と引き継ぎ”を仕組み化

リピーター対応の質を左右するのは、データの鮮度です。
滞在後には必ずフィードバックを記録し、次回の担当者に引き継ぎます。

✅ 滞在後のチェック項目例:

  • 朝食の好みは?
  • 会話で印象に残ったことは?
  • 次回につなげる一言メモ(例:「また秋に来たいと話していた」)

この積み重ねが、“宿としてお客様を覚えている”という信頼を生みます。

3. AI×データで「顧客像」を可視化

最近では、ChatGPTやCRM連携AIを使い、顧客データから“おもてなし提案”を自動生成する宿も増えています。

💬 例:
「30代夫婦で2回目の滞在。前回はワインを喜んでいた」
→ ChatGPTに「次回の滞在時に喜ばれる提案を出して」と入力
→ 「チェックイン時に地元ワインの試飲案内を添える」などの具体案が自動生成

AIを活用すれば、スタッフの経験値に頼らず、データドリブンなおもてなし設計が可能になります。

実例:チーム接客でリピート率を20%改善した宿

事例①:群馬県・温泉旅館

課題:スタッフ間で顧客情報の共有ができず、担当者が変わると対応品質がバラバラに。

施策:

  • 顧客情報をLINE WORKSで共有
  • 「チェックイン〜チェックアウト」の接客フローを“型化”
  • 「リピーターカード」を作成し、来館時に担当者全員が確認

成果:リピーター率が28%→47%に上昇。
口コミでも「誰が対応しても同じ温かさがある」と高評価。

事例②:長崎県・ホテル

課題:外国人客増加により、接客対応の差が拡大。

施策:

  • 顧客データを自動翻訳+共有化
  • スタッフがどの国のお客様でも対応できるよう、文化情報をシステムで表示
  • AIによる「おもてなしシナリオ」を導入

成果:クレーム件数が半減し、Googleレビュー平均が4.2→4.6に上昇。

事例③:新潟県・古民家宿

課題:ベテラン女将の退職でリピーター減少。

施策:

  • 女将の“おもてなしメモ”をデジタル化し、全員で閲覧
  • チーム全員で同じ口調・同じ挨拶を徹底
  • 定期的に「接客ロールプレイ」を実施

成果:
「以前の温かさが戻った」とリピーターが回帰。
月間リピート予約率が15%アップ。

“チーム接客”を機能させる3つの仕組み

1. 役割の分担を明確にする

チーム接客は、全員が同じことをすることではありません。
「誰がどの段階でどんな印象を与えるか」を分業することで、一貫性を保ちます。

例:

  • フロント:最初の印象と名前の記憶
  • 食事担当:好み・会話内容の記録
  • 客室担当:要望をCRMに入力

情報が流れる仕組みが整えば、宿全体で「一人のお客様を見守る」体制ができます。

2. データと感情のバランスを取る

顧客データの共有は大切ですが、数字だけでは“温かさ”が失われます。
データは“心を込めるための下地”であり、マニュアルではありません。

「前回、娘さんの受験の話をしていたお客様」
→ 「お嬢さま、春から高校生になられましたか?」

たった一言の気遣いが、“記録”を“記憶”に変えるのです。

3. 定期的な振り返りミーティングを行う

宿泊後、チームで「今回のおもてなしで良かった点・改善点」を話し合います。

  • 顧客データを活用できた瞬間は?
  • 次回、もう一歩踏み込むには?
  • 言葉のトーン・タイミングは適切だったか?

この振り返りこそが、“型”を磨き続ける最大の手段です。

DX時代の“おもてなし”は「人×データ」で進化する

デジタル化が進むほど、宿泊業に求められるのは“人の温かさ”です。
しかし、その温かさを再現性のある仕組みに変えるには、データの力が欠かせません。

テクノロジーが“記憶”を支え、
チームが“感情”を届ける。

この両輪がかみ合ったとき、宿は初めて「お客様の人生に寄り添う存在」になります。

まとめ:おもてなしを“個人技”から“組織力”へ

リピーターを増やす秘訣は、「前回と同じ温かさ」を再現できるかどうか。
それを可能にするのが、“おもてなしの型”と“顧客データの共有”です。

✅ 属人的接客を脱し、チームで支える体制をつくる
✅ 顧客データを宿全体の“共通言語”にする
✅ 感情と仕組みを融合させて、信頼を積み重ねる

「どのスタッフが対応しても心地よい宿」こそ、真の“リピートされる宿”。
おもてなしを“人の記憶”から“チームの文化”へ変える──
それが、次世代の宿経営に求められる最重要テーマです。

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