宿泊施設の経営で、最も判断が遅れるのが価格です。
「今月は苦しい」と分かるのが月の後半で、そこから値下げしても、間に合うのは残りわずかな日数だけ。
「もっと早く手を打てていれば」
この繰り返しになっている施設は少なくありません。
原因は、見ている数字が「結果」だからです。稼働率も売上も、終わったことしか教えてくれません。
先を読むために使うのがブッキングカーブです。予約がどう積み上がっているかを追う考え方で、特別なシステムは要りません。Excelと週1回15分あれば作れます。
本記事では、その作り方と、カーブの形から何を判断するかを解説します。
「今の予約数」では先が読めない
同じ予約数でも、意味が正反対のことがある
来月20日の予約が、今の時点で12室入っているとします。この数字だけでは、良いのか悪いのか判断できません。
去年の同じ時期、同じ日数前の時点で18室入っていたなら、今年は遅れています。逆に去年が6室だったなら、今年は好調です。
つまり、予約数は「何日前の時点か」とセットでなければ意味を持ちません。この視点が抜けていると、直前になるまで判断できません。
月末の集計では、打てる手がない
月次の集計は必要ですが、経営判断には遅すぎます。数字が出たときには、その月はすでに終わっています。
価格や在庫で動かせるのは、これから予約が入る期間だけです。だから、見るべきは過去ではなくこれから先の予約の入り方になります。
ブッキングカーブとは何か
ある宿泊日について、予約が何日前からどう積み上がったかを表した線です。
横軸は「宿泊日の何日前か」。右へ行くほど宿泊日に近づきます。縦軸は「その時点までに入っている予約室数」です。
線は必ず右上がりになります。予約はキャンセルがなければ増える一方だからです。見るのは、上がり方の速さと形です。
そして必ず前年の同じ日のカーブと重ねます。1本だけでは速いのか遅いのか分からないためです。
用意するデータは3列だけ
サイトコントローラーやPMSから、次の3つが取り出せれば足ります。
- 宿泊日 いつ泊まるか
- 予約日 いつ予約が入ったか
- 室数 その予約が何室か
この3列があれば、「宿泊日 − 予約日」でリードタイム(何日前の予約か)が計算できます。あとは集計するだけです。
予約日が取り出せない場合は、来週から手作業で記録を始めてください。毎週の予約室数を書き留めるだけでも、3か月あれば形が見えてきます。
週次シートの作り方
いきなり日別のグラフを作ろうとすると続きません。まずは月単位の表から始めます。
毎週決まった曜日に、先の3か月分について「現時点の予約室数」を記録します。
| 記録日 | 11月分 | 12月分 | 1月分 |
|---|---|---|---|
| 10/6 | 180室 | 90室 | 30室 |
| 10/13 | 215室 | 110室 | 38室 |
| 10/20 | 250室 | 135室 | 45室 |
| 10/27 | 288室 | 160室 | 55室 |
横に並べると、1週間でいくつ増えたかが見えます。上の例なら、11月分は週に35室前後のペースで積み上がっています。
総販売可能室数が900室泊なら、11月分は10/27時点で32%まで積み上がったことになります。
これを前年の同じ週と比べます。前年の同時期が260室だったなら、今年は28室分先行しているという読み方になります。
カーブの形から読み取ること
| 形 | 状態 | 打つ手 |
|---|---|---|
| 前年より上を推移 | 需要が強い | 値上げを検討する。直前割は出さない |
| 前年とほぼ同じ | 想定どおり | そのまま様子を見る |
| 前年より下を推移 | 需要が弱い、または露出が落ちている | 原因を切り分ける(後述) |
| 途中から伸びが止まる | ある時点から売れていない | その時期の価格・在庫・掲載を確認 |
最も重要なのは4番目です。カーブが途中で寝てしまう場合、その時点で何かが起きています。
在庫を出し忘れている、競合が値下げした、掲載順位が落ちた、プランを止めたまま忘れている。原因は必ずあります。
結果の数字だけを見ていると、この「止まった時点」が分かりません。週次で追っていれば、止まった週が特定できます。
前年より下のとき、何を疑うか
順番に切り分けます。上から確認してください。
- 在庫が出ているか(売り止めのまま放置していないか)
- 販売中のプランが去年と同じだけあるか
- 価格が去年より上がりすぎていないか
- 検索結果に表示されているか(自分で検索して確認)
- 近隣に新しい競合が出ていないか
1と2は、確認すればその日のうちに直せます。実際、原因の多くはここにあります。
値下げの判断に使う
ブッキングカーブの最大の用途がこれです。値下げの「時期」を決められます。
やり方は単純で、前年のカーブを目標線として使うだけです。
ある時点で前年を下回っていて、残りの日数で追いつくペースにないなら、そこが手を打つタイミングです。逆に前年を上回っているなら、直前割を出す必要はありません。
これがないと、値下げの判断は「なんとなく不安だから」になります。結果として、放っておいても埋まった日まで安く売ってしまいます。
値下げがどれだけ利益を削るかは損益分岐稼働率の出し方で試算しています。判断を早めることは、そのまま利益を守ることにつながります。
需要に応じた価格調整の実例は9月の売上が17.2倍になった理由。ダイナミックプライシングが変えた収益の変化もご覧ください。
着地を予想する
週次の記録が1年分たまると、もう一段先のことができます。今のペースなら最終的に何室売れるかを予想できるようになります。
使うのは、前年の「ある時点での予約数」と「最終的な実績」の比率です。
先ほどの例で考えます。前年の10月末時点で、11月分の予約は260室入っていました。そして11月の最終実績は630室(稼働率70%)だったとします。
この時点では、最終実績の41%がすでに入っていたことになります(260 ÷ 630)。
今年の同時点は288室です。同じ入り方をすると仮定すると、着地は288 ÷ 0.41 で約698室、稼働率にして約78%という予想になります。
この数字が出せると、判断が変わります。「今のままなら78%まで行く」と分かっていれば、慌てて値下げする必要がないと判断できるからです。
逆に予想が55%だったなら、まだ1か月あるうちに手を打てます。月末に55%だったと知るのとは、打てる手の数がまったく違います。
この予想の限界
前提として「去年と同じような入り方をする」と仮定しています。近隣で大きなイベントがある年や、競合が新しくできた年には当てはまりません。
あくまで目安として使い、ずれてきたら比率のほうを見直してください。2〜3年分たまると精度が上がります。
慣れてきたら分けて見る
月単位で回せるようになったら、次の切り口で分けると、打ち手がより具体的になります。
| 分け方 | 分かること |
|---|---|
| 平日と週末 | どちらが弱いか。施策を打つべき曜日が決まる |
| OTA別 | 特定のOTAだけ落ちていないか(掲載や在庫の問題を発見できる) |
| プラン別 | 売れているプラン・売れていないプランの見極め |
| 客室タイプ別 | 特定の部屋だけ余っていないか |
最初に増やすなら、平日と週末の2分割です。宿泊施設の課題は、たいていどちらか一方に偏っています。
全体では前年並みでも、分けてみると「週末は好調、平日が大きく落ちている」と分かることがあります。この場合、全体の値下げは不要で、平日だけに手を打てば済みます。
ただし、いきなり4つとも分けないでください。管理する表が増えるほど、記録が続かなくなります。
やりがちな間違い
- 日別で始めようとする 365本のカーブは追えません。まず月単位から
- 記録する曜日を決めていない 週によって間隔が変わると比較できません
- 前年と比べていない 1本だけでは速いか遅いか判断できません
- キャンセルを反映していない 純増ではなく、その時点の有効な予約数を記録します
- グラフを作ることが目的になる 表のままで構いません。判断できれば十分です
特に2番目は見落とされがちです。曜日がずれると、増えたのが7日分なのか10日分なのか分からなくなります。毎週同じ曜日の同じ時間に記録してください。
最初の3か月の進め方
前年データがなくても始められます。3か月かければ、自施設の標準的な形が見えてきます。
- 1か月目 毎週同じ曜日に、先3か月分の予約室数を記録するだけ
- 2か月目 週ごとの増加数を計算し、ペースが速い月・遅い月を把握する
- 3か月目 前年の実績(月別の最終稼働率)と並べ、着地予想を立ててみる
- 4か月目以降 前年同週と比較し、値下げ・値上げの判断に使う
週次ミーティングがあるなら、この表を1枚配るだけで議題になります。「先月はこうでした」ではなく「来月はこのままだと届きません」という会話に変わります。
数字を施策の検証に使う考え方はOTA売上を2倍にしたデータ分析アプローチ|AKSが使用する3つの分析視点でも扱っています。
まとめ
稼働率も売上も、終わったことしか教えてくれません。先を読むには、予約がどう積み上がっているかを追う必要があります。
必要なデータは宿泊日・予約日・室数の3列だけ。毎週同じ曜日に先3か月分の予約室数を記録し、前年と比べる。これだけで、値下げの判断が数週間早くなります。
グラフは後回しで構いません。まずは今週、先3か月の予約室数を書き留めるところから始めてください。3週分たまれば、もうペースが見えます。
この記録は、担当者が代わっても引き継げる形にしておいてください。ブッキングカーブの価値は、蓄積した年数に比例して上がります。1年分たまれば前年比較ができ、2年分たまれば着地予想の精度が上がります。
逆に言えば、今日始めなければ、来年も同じように「直前まで売上が読めない」状態が続きます。始めるのに最も良い時期は、いつでも「今週」です。
予約データを経営判断に使いたい施設さまへ
株式会社AKSは、宿泊施設の売上改善を専門とするコンサルティング会社です。OTAの運用代行、料金設計、掲載内容の改善までを一貫してお手伝いしています。
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