繁忙期と閑散期の最適な料金戦略〜「値下げ」ではなく「価値設計」で収益を最大化する方法〜
はじめに:なぜ“季節ごとに同じ料金”では利益が伸びないのか
宿泊業界では、「繁忙期は高く、閑散期は安く」という単純な価格設定をしている施設がまだ多く見られます。
しかし、データを分析するとこの方法では 「繁忙期の機会損失」と 「閑散期の価格下落スパイラル」 の両方が起きていることが分かります。
📊 例:30室の温泉旅館の場合
- 繁忙期に満室(30室)でも、設定価格が市場相場より5%低ければ 月30万円以上の機会損失
- 閑散期に安売りしすぎると、ブランド価値が下がり リピーター単価が年間で10%減少
つまり、“高い時に取りこぼさず、低い時に崩さない”価格戦略こそが、
年間利益を底上げする最重要テーマです。
データで見る「繁忙期・閑散期の収益構造」
料金戦略を立てるには、まず自社の需要サイクルをデータで可視化することから始めます。
基本の分析項目(PMSまたはExcelでOK)
| 指標 | 意味 | 活用目的 |
|---|---|---|
| 稼働率 | 宿泊室の稼働割合 | 需要の波を把握 |
| ADR(平均単価) | 1室あたりの平均売上 | 価格トレンド分析 |
| RevPAR(1室あたり収益) | ADR × 稼働率 | 真の収益効率を確認 |
| Booking Window | 予約リードタイム | 早期・直前需要を特定 |
月次比較例(2024年度)
| 月 | 稼働率 | ADR | RevPAR | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 1月 | 62% | ¥19,000 | ¥11,780 | 年始以降の落ち込み |
| 5月 | 95% | ¥26,000 | ¥24,700 | GW繁忙期 |
| 9月 | 48% | ¥18,500 | ¥8,880 | 台風・閑散期 |
| 12月 | 85% | ¥23,000 | ¥19,550 | 年末需要回復 |
➡ このように「稼働×単価の掛け算で見る収益の谷」を把握すると、
“単に埋める”のではなく“利益を守る”戦略にシフトできます。
繁忙期に「取りこぼさない」料金戦略
① 需要ピークを“3段階価格”でコントロール
繁忙期には一律の高価格よりも、段階的な価格上昇モデルが最も効果的です。
| タイミング | 価格設定 | 意図 |
|---|---|---|
| 早期予約(60日前) | 通常価格の−5% | 早期確定で在庫を安定化 |
| 標準価格(30日前〜) | 基準価格 | 通常販売枠 |
| 直前(10日前〜) | 通常価格の+10〜15% | 需要急増に対応 |
💬 ポイント:
「価格変動=損」ではなく、「早く予約するとお得」と認識されるように設計する。
② OTAと公式サイトでの価格戦略を分離する
OTAは手数料が10〜20%発生するため、
繁忙期に全室をOTAに出すと利益を圧迫します。
💡 対策:
- OTAには標準価格(または高め)を設定
- 自社サイトでは“同価格+特典付き”を提示
📘 例:
OTA:¥25,000
自社サイト:¥25,000(地元ドリンク1杯サービス+12時チェックアウト)
結果的に同価格でも「お得感」で公式予約率を上げられる。
③ ダイナミックプライシングで自動調整
需要に応じて価格を自動変動させる「ダイナミックプライシング」は、
近年では中小規模宿でも導入可能になっています。
実績データ例(導入3ヶ月後)
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| 平均ADR | ¥21,000 | ¥23,500(+12%) |
| 平均稼働率 | 78% | 83% |
| 月間売上 | +17%向上 |
➡ 「AIで市場価格を監視し、自動調整」することで、繁忙期の取りこぼしゼロ化が可能になります。
閑散期に「崩さず売る」料金戦略
閑散期のポイントは、「安さ」で勝負せず“理由あるお得さ”を打ち出すこと。
① 価格より“体験価値”を強化する
閑散期は「プラン価値>価格」で差別化。
例:
| プランタイプ | 内容 | 価格戦略 |
|---|---|---|
| リトリート滞在 | ヨガ・瞑想・スパ付き | 通常価格維持 |
| ワーケーションプラン | Wi-Fi・軽食・延長滞在可 | 平日限定特価 |
| 地元食材プラン | 地産地消ディナー+朝食 | OTA限定5%OFF |
💬 SEOキーワード例:
「冬 リトリートプラン」「平日限定プラン」「ワーケーション ホテル」「閑散期 宿泊割」
② 直前割を“限定設計”で実施
閑散期に売れ残りを埋める際は、「誰に」「どのタイミングで」打つかをデータで決める。
過去の傾向
- 月中・火曜〜木曜が稼働ボトム
- 予約リードタイムが短い(3日以内が70%)
対策:
- 火曜限定「直前3日割」
- LINE友だち限定「48時間前予約で5%OFF」
- SNSで“シークレット価格”を発信
👉 安売りを公開せず、ファン層にだけ届けるのがコツ。
③ 地域コラボ×季節イベントで“需要創出”
閑散期は、外部要因(地域・文化)を巻き込むのが効果的。
例:
- 「冬の地元食祭りプラン」
- 「雨の日限定・癒し滞在」
- 「アート×温泉コラボステイ」
実績効果(平均)
- 平日稼働率 +20pt
- SNS経由予約数 1.8倍
- 地元メディア露出で新規客増
実際の成功事例(施設名非公開)
リゾートホテル(南国エリア)
🔹 課題
繁忙期の単価設定が甘く、閑散期は過度な値下げ。
🔹 対策
- 月次データをもとに“30段階料金”モデル導入
- 閑散期は「地元体験プラン」で単価を維持
- ダイナミックプライシング導入
🔹 成果
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| 平均稼働率 | 71% | 84% |
| ADR | ¥20,800 | ¥23,900(+15%) |
| 年間売上 | — | +18%増加 |
💬 「安売りをやめたら、むしろ予約が増えた」という好循環が発生。
🏕 温泉旅館
🔹 対策
- 閑散期に「滞在型リトリートプラン」を投入
- 平日2連泊+朝ヨガ+地元食材ディナー
- OTAでは通常価格、自社サイトで特典付き
🔹 成果
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| 平日稼働率 | 52% | 76%(+24pt) |
| 平均客単価 | ¥18,000 | ¥20,800(+15%) |
| リピーター比率 | 27% | 43%(+16pt) |
💬 ブランド価値を守りながら稼働を底上げした好例。
料金戦略の「データ管理と検証フロー」
| ステップ | 内容 | ツール例 |
|---|---|---|
| ① データ収集 | 稼働率・ADR・予約経路を取得 | PMS/Excel/BIツール |
| ② 可視化 | 月次・週次グラフで比較 | Google Looker Studio |
| ③ 仮説検証 | 谷・ピークの要因分析 | 価格変動・競合分析 |
| ④ 改善 | 新プラン投入・価格調整 | RMS or 自動更新ツール |
📌 重要:
「分析→仮説→実装→検証」を毎月1回回すことが、収益安定の鍵です。
まとめ:「価格」は“顧客が感じる価値”で決まる
料金戦略とは、単なる数字の操作ではありません。
それは、「どんな顧客に、どんな時期に、どんな価値を感じてもらうか」の設計です。
✔ 繁忙期は“取りこぼさず、ブランドを守る”
✔ 閑散期は“値下げせず、体験を加える”
✔ データに基づいて“価格を意思決定”する
このサイクルを続けることで、「安売りせずに満室」を実現できます。
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