連泊を促す「滞在型プラン」の魅せ方〜宿泊単価を上げながら“ファン滞在”をつくる方法〜

はじめに：なぜ今、“連泊需要”に注目すべきなのか

観光動向が大きく変わる中、ホテル・旅館業界では「連泊（滞在型）プラン」が再注目されています。
コロナ禍を経て旅行の目的は「移動」から「滞在」へシフトし、
“日常から離れてゆっくり過ごす”という新しい旅の価値が広がりました。

観光庁の最新調査によると、2024〜2025年にかけて
「2泊以上の滞在率」は前年比＋18％増加。
一方で、宿泊単価が1泊利用より平均13〜20％高いことも報告されています。

このトレンドをうまく活用できている宿は、
「集客を減らしても売上を維持できる」＝高効率な経営構造を実現しています。

しかし、課題も明確です。

「連泊プランを出しても予約が入らない」
「滞在型と謳っても差別化ができていない」

その原因は、
“連泊の魅力を伝える設計ができていない” ことにあります。

本記事では、

• 連泊プランを選びたくなる心理設計
• 滞在型プランの魅せ方・打ち出し方
• 成功している宿泊施設の実例
  を具体的に解説します。

「連泊＝割引」だけでは選ばれない時代へ

多くの施設が「連泊割引」という形でプランを出していますが、
実は今の旅行者は“価格”ではなく“体験”で滞在を選んでいます。

📊 データで見る傾向

• 「お得だから連泊」より「ゆっくり過ごしたい」「仕事と休暇を両立したい」が理由の上位に（観光庁調べ）
• 特に30〜50代は“目的滞在型”の割合が60％以上
• OTA上でも「連泊プラン」のクリック率は“体験付きプラン”の約1/2

つまり、「連泊＝安い」では刺さらない。
滞在中に“何ができるか”を魅せることが最重要です。

旅行者の心理から考える「滞在型プラン」設計

滞在型プランを選ぶ3つの動機

動機	心理キーワード	プランで伝えるべき要素
① ゆっくり休みたい	癒し・静けさ・非日常	滞在時間・静かな環境・スパや温泉体験
② 仕事＋旅を両立したい	ワーケーション・集中・整う	Wi-Fi・デスク環境・長期割引・コワーキング
③ 地域を深く楽しみたい	ローカル体験・食・文化	アクティビティ・地元イベント・季節連動

ここで重要なのは、“宿泊そのもの”ではなく“滞在価値”を商品化すること。
たとえば「温泉に2回入れる」「朝食がゆっくり食べられる」など、
“1泊では味わえない特別体験”を具体的に打ち出すことが、予約率を高める鍵になります。

心を動かす「滞在型プラン」の魅せ方5選

① 「時間の贅沢」を言語化する

✳︎ 例：「何もしない贅沢を、2泊3日で。」
✳︎ 例：「2日目の朝、やっと息が整う滞在を。」

→ 価格ではなく、“ゆったりした時間”の価値を言葉で訴求する。
キャッチコピーに「○日間」「ゆっくり」「整う」などのワードを入れると効果的。

② 滞在中の“変化”を描く

1泊だと感じられない変化（朝・夕・夜など）を強調する。

✳︎ 例：「夕焼けのテラスと、朝霧の温泉。時間で変わる絶景を愉しむ2泊プラン」
✳︎ 例：「朝は地元食材の朝食、夜は満天の星空。心を整えるリトリートステイ」

📈 効果：体験イメージが明確になり、予約時の“想像のしやすさ”が向上。

③ ストーリーで“滞在理由”を提示

「誰が」「なぜ」「どんな過ごし方をするのか」を物語にする。

✳︎ 例：「忙しい日常から離れて、本を片手に過ごす2泊3日」
✳︎ 例：「夫婦でゆっくり語らう“二人の記念日ステイ”」

→ ストーリーマーケティング要素を入れると、“自分ごと化”が起きる。

④ 滞在中の“特典”を強調する

「連泊＝割引」ではなく、「滞在＝特別体験」を訴求。

✳︎ 例：「2泊目は夕食時にワイン1杯プレゼント」
✳︎ 例：「3泊目はお部屋をアップグレード」

→ 小さな特典でも、“泊まるほど得する”心理が働きます。

⑤ 公式サイト限定の価値をつける

OTAとの差別化には、“公式サイトでしか予約できない滞在特典”が有効。

✳︎ 例：「公式限定・レイトチェックアウト無料」
✳︎ 例：「3泊以上の方限定・地元カフェチケット付き」

💡 GoogleビジネスプロフィールやSNSから自社サイトへリンク誘導し、
“滞在の魅力→予約導線”を最短化するのがポイント。

成功している施設の事例

沖縄・リゾートホテル

テーマ：「働きながら癒す“ワーケーション滞在プラン”」

コロナ禍を経て、リゾートエリアでは「ワーケーション（Work × Vacation）」の需要が急増しました。
沖縄本島中部に位置するリゾートホテル」は、この流れをいち早く捉え、
“働きながら癒す滞在”をテーマにした長期滞在型プランを開発しました。

【課題】

もともと平均宿泊日数は1.7泊。
「連泊はしたいけれど、滞在中にやることが少ない」「Wi-Fi環境が不安」という声が多く、
観光以外の目的を持つ顧客（リモートワーカー・クリエイター層）を取り逃がしていました。

【施策：働ける×癒せる滞在環境を設計】

1️⃣ 専用ワークスペースを新設
客室の一部をワーク専用ルームにリノベーション。
全席に高速Wi-Fi、27インチモニター、無料ドリンクスペースを設置。

2️⃣ 1日の過ごし方をプラン化

• 午前：集中ワーク（静音スペース利用）
• 昼：ホテルカフェで“集中ランチ”セット
• 午後：海辺テラスでのリラクゼーションタイム
• 夕方：サンセットヨガ・バータイム

3️⃣ 長期滞在者向け特典を導入

• 3泊以上でランドリー無料＋ウェルカムドリンクチケット
• 5泊以上でマッサージ20分無料＋空港送迎特典

【成果】

指標	Before	After（導入6ヶ月後）
平均宿泊日数	1.7泊	3.4泊（倍増）
公式サイト経由予約比率	34％	61％
OTA手数料削減額	月平均 約25万円	月約48万円（約2倍）
平均客単価	18,600円	22,300円（＋19.9％）

💬 【口コミからの反応】

「午前は仕事、午後はリゾート。理想のリズムがここにありました。」
「時間がゆっくり流れる感覚。1泊では味わえない“余白のある滞在”。」
「次回は1週間滞在したい！」

リピーター率も急上昇し、連泊プランの稼働率は平日でも85％超。
🌺 【成功ポイントまとめ】

✅ “価格割引”ではなく“ライフスタイル体験”を売ったこと
✅ 滞在時間をデザインし、“何をする時間か”を可視化したこと
✅ 滞在者の口コミをUGCとして二次活用したこと

→ 滞在型プラン＝働き方・生き方の提案に進化。
この姿勢が新しい客層の獲得につながっています。

長野・温泉旅館

テーマ：「自然の中で心を整える“整う滞在プラン”」

長野県の山間に佇む温泉旅館は、“心を整える”をコンセプトに、リトリート（Retreat）需要に特化した滞在型プランを打ち出しました。

🌲 【課題】

コロナ収束後、観光目的の宿泊客は戻ったものの、
「1泊2日ではあっという間」「もっとゆっくり過ごしたい」という声が多数。
一方で、館内アクティビティが少なく、連泊を後押しする理由が弱かった。

【施策：“1日ごとに癒される滞在”をデザイン】

1️⃣ 滞在スケジュールをストーリー化

• 1日目：夕方の「星空観賞会」
• 2日目：早朝「座禅体験」＋「森の朝さんぽツアー」
• 3日目：地元食材を使った“整う朝食”と温泉入浴

「1泊では完結しない3日間のリズム」をテーマに、
滞在そのものを“体験プログラム”に構築。

2️⃣ 自然環境を活かした空間演出

• 館内BGMを“森の音”に変更
• 部屋には“香りのアロマストーン”を設置
• 照明は時間帯で自動調光 → “心が整うリズム”を演出

3️⃣ 口コミとSNSを活用したブランディング
滞在者の投稿を公式Instagramで紹介し、「#森のリトリート」のハッシュタグを展開。
→ 旅行メディアにも取り上げられ、話題化。

【成果】

指標	Before	After（導入6ヶ月後）
リピーター比率	35％	58％（＋23pt）
平均宿泊日数	1.9泊	3.1泊（＋63％）
平均客単価	19,500円	23,100円（＋18％）
滞在満足度（アンケート）	82％	96％

💬 【お客様の声】

「時間がゆっくり流れて、心が軽くなりました。」
「3泊して初めて、自分のリズムが戻った気がします。」
「ここは“泊まる”というより、“戻ってくる場所”。」

これらの口コミがSNSで自然拡散し、
「心を整える滞在」というキーワードでGoogle検索上位に表示されるように。
結果として、検索経由の自社予約が前年比＋58％を記録。

【成功ポイントまとめ】

✅ 滞在スケジュールそのものを“体験商品化”したこと
✅ 1泊では完結しない“3日間の流れ”をデザインしたこと
✅ 滞在価値を口コミ・SNSで再発信したこと

→ 滞在プランを「癒しの物語」として設計することで、滞在満足度と収益を両立。

滞在型プランで売上を最大化する3つの戦略

戦略	内容	目的
1️⃣ プラン販売ページの構成最適化	写真＋体験スケジュール＋口コミをセット表示	想像しやすく、離脱率を下げる
2️⃣ 滞在テーマにハッシュタグを付けSNS発信	#滞在型旅行 #連泊ステイ #心整う時間	SNS経由で自然検索流入を増やす
3️⃣ 滞在中の満足度アンケートで新プラン開発	顧客データを反映して再設計	ファン滞在をリピート化

🌺 まとめ：滞在を“商品化”できる宿が、次の勝者になる

連泊プランは、もはや“割引の延長”ではありません。
「時間を売る」＝「価値を創る」時代へ。

滞在中の1分1秒をデザインし、
その魅力を言葉とビジュアルで伝えられる宿こそが、
“もう一泊したくなる宿”として選ばれ続けます。