月次分析で「稼働の谷」を埋める方法〜データを「行動」に変える宿泊マネジメント戦略〜
はじめに:なぜ“稼働の谷”は毎月起こるのか?
宿泊業において、「稼働率の谷(ボトム)」は避けて通れません。
多くのホテルや旅館では、
「平日が埋まらない」
「月中で稼働が急落する週がある」
「連休明けの需要が激減する」
といった“稼働の波”が、安定経営を阻む大きな要因になっています。
しかし、その原因を感覚で捉えている施設が非常に多いのも事実です。
👉 「たぶんイベントがなかったから」
👉 「雨が続いたから」
👉 「SNS投稿をサボったからかも」
これらは「仮説」ではありますが、“検証されないまま次の月を迎える”のが現実。
一方、稼働率の安定している宿は、必ず「月次分析→仮説→行動」のループを回しています。
つまり、“データを見て次の月を動かす”という習慣があるのです。
この記事では、
✔ 月次分析で稼働の谷を発見する方法
✔ データから行動に落とし込むステップ
✔ 稼働を平準化した成功事例
を具体的に紹介します。
まず把握すべき「4つの基本指標」
月次分析の出発点は、「どの数字を見るか」を明確にすることです。
分析すべき基本指標は、以下の4つ。
| 指標 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| ① 稼働率(Occupancy) | 客室稼働の割合 | 稼働の谷を特定する |
| ② ADR(平均客室単価) | 1泊あたりの平均単価 | 単価変動と谷の相関を分析 |
| ③ RevPAR(1室あたり収益) | ADR × 稼働率 | 稼働と利益の総合評価 |
| ④ Booking Window(予約リードタイム) | 予約〜宿泊までの日数 | 谷の“予兆”を掴む |
💡 ポイント:
「稼働の谷」は単に“埋まらない日”ではなく、
「稼働が落ち始めるタイミング」+「単価が下がる日」を指すことが多い。
「稼働の谷」を見える化する月次分析手法
ステップ①:週単位で稼働率をグラフ化
月単位では見落とされがちな“週中の谷”を可視化します。
例:
第1週:85%
第2週:90%
第3週:61% ← 要因を特定
第4週:88%
💡 ExcelやBIツール(例:Google Looker Studio)を活用し、曜日別・週別で分解。
ステップ②:チャネル別に稼働を比較
OTA、自社サイト、旅行会社、団体などの販売チャネル別に稼働を分解。
| チャネル | 稼働率 | 平均単価 | 備考 |
|---|---|---|---|
| OTA | 74% | ¥19,800 | 当日予約が多い |
| 自社サイト | 58% | ¥23,500 | 谷の影響大 |
| 旅行会社 | 92% | ¥16,500 | 安定稼働 |
📊 → どのチャネルが谷の要因かを特定し、「販売配分」を再調整します。
ステップ③:イベント・天候・競合を重ねて分析
稼働が下がった週に、外部要因(天候・地域イベント・競合価格)を照合します。
「地域イベントがなかった週」
「競合が直前割を実施していた週」
「台風でキャンセルが多発した週」
📈 谷の要因を“外因or内因”で分類することで、次月の対策が明確になります。
ステップ④:リードタイムから“谷の予兆”を検出
予約リードタイムを月次比較すると、谷が発生する前兆が見えます。
例:通常→14日前に予約集中
→ 今月→7日前まで動きが鈍い
この場合、7日前から「直前プラン」や「LINEクーポン配信」を仕掛けると稼働を底上げできます。
「稼働の谷」を埋める実践アプローチ
① 平日を埋める「ターゲット切替戦略」
平日の谷を埋めるには、「誰を狙うか」を変えること。
| ターゲット | アプローチ例 |
|---|---|
| リモートワーカー | 平日限定ワークステイプラン(Wi-Fi+コーヒー付) |
| シニア層 | 平日2連泊で1泊無料キャンペーン |
| 地元層 | 「地元応援DAY」などの県民限定プラン |
💬 キーワードSEO対策:
「平日限定プラン」「リモートワーク ホテル」「連泊割引」などをプラン名に含める。
② OTA依存を減らし“自社予約の谷”を防ぐ
稼働が落ちる月ほど、OTA割引頼みになりがち。
しかし、手数料で利益を削っては本末転倒です。
→ 自社公式サイト限定で、以下のような“再訪促進策”を展開。
- LINE友だち登録で5%OFF+レイトチェックアウト
- 雨天時限定クーポン
- メルマガ限定「谷対策プラン」
📈 結果: 直販比率が5%上がるだけで、年間利益は平均+80万円改善(30室規模の宿)。
③ 月中の稼働低下を埋める「イベント連動戦略」
閑散週には、自主イベントを組み合わせて“人工需要”を創出。
| 月 | 企画例 | 効果 |
|---|---|---|
| 4月 | 春のワインナイト | 女性客・地元層の予約増 |
| 7月 | 雨音カフェ・アロマ体験 | 雨天時のキャンセル抑制 |
| 11月 | 焼き芋・紅葉プラン | 平日稼働+20pt改善 |
💡 SNS+Googleビジネスプロフィールでイベントを露出させると、“予約動機の再喚起”につながる。
④ 単価を下げずに埋める「特典型プロモーション」
稼働の谷を埋めるために、単価を下げるのは最終手段。
代わりに「特典+限定感」で動機づけを行う。
例:「2連泊で朝食1日無料」
例:「今週末限定・貸切風呂30分サービス」
例:「チェックイン時ウェルカムスイーツ付き」
→ 平均単価を守りつつ、予約率を+15〜20%改善可能。
実際の成功事例
🏝 リゾートホテル(南国エリア)
🔹 課題
梅雨期(6月)の稼働率が例年50%台で停滞。
🔹 対策
- 月次分析で「平日+雨天週のOTA稼働落ち」を特定
- 公式サイト限定「雨音を楽しむ連泊プラン」導入
- LINE配信で“悪天候でも楽しめる”コンテンツを展開
🔹 成果
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| 平日稼働率 | 52% | 78%(+26pt) |
| OTA依存度 | 72% | 53%(−19pt) |
| 平均単価 | ±0 | 維持(下げずに改善) |
💬 利用者コメント
「雨でもリラックスできた」「平日に泊まる理由ができた」
🏕 温泉旅館(地方観光地)
🔹 課題
月初・月末で稼働が激減。予約リードタイムが不安定。
🔹 対策
- Booking Windowを週次で分析
- 「7日前からの予約が鈍る」ことを検知
- 7日前に「LINE限定直前クーポン」を配信
🔹 成果
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| 直前予約率 | 19% | 37%(+18pt) |
| 月平均稼働率 | 68% | 85%(+17pt) |
| 収益(RevPAR) | +0 | +14%向上 |
分析を“習慣化”するための仕組み
| 項目 | 方法 | 目的 |
|---|---|---|
| データ収集 | 予約システム+Excel/Google Sheets | 毎月自動集計化 |
| KPI共有 | 週次ミーティング | チームで課題共有 |
| 仮説検証 | 月次レポート+施策検証 | 改善サイクル維持 |
📌 重要なのは「振り返り」ではなく「次の月を動かす」こと。
まとめ:数字を見る宿は、未来を変えられる
「稼働の谷」を埋める最も確実な方法は、
感覚ではなく“データで動く経営”に変えること。
✔ 月次で谷を発見
✔ 原因を仮説化
✔ 対策を実装
✔ 結果を再検証
このサイクルを回す宿ほど、年間稼働率が安定し、
“繁忙期だけに頼らない経営”を実現しています。
この記事へのコメントはありません。