「単価1万円の壁」を超える宿泊プラン設計術 体験価値を高める料金戦略とは
なぜ「1万円の壁」は宿の成長を止めるのか
「これ以上、値上げしたらお客様が離れてしまうのでは」
そんな不安から、宿泊単価を上げられずに悩む経営者は少なくありません。
多くの旅館・ホテルが抱える“見えない壁”。それが、宿泊単価1万円のラインです。
朝夕2食付きで9,800円前後──
一見、バランスが良さそうに見える価格帯ですが、
原価・人件費・光熱費の上昇を考えれば、実質的な利益はほとんど残らない構造になっています。
しかし、実際にこの「1万円の壁」を突破しても稼働率を維持し、
むしろリピーターを増やしている宿は全国に存在します。
彼らに共通しているのは、「値上げ」ではなく「価値の再設計」で勝負していること。
つまり、“価格競争”から抜け出し、“体験価値で選ばれる宿”へと変化しているのです。
本記事では、単価1万円を超える宿が実践するプラン設計と料金戦略の新しい考え方を、
実際の成功事例を交えながら解説します。
「安い宿」ではなく「価値ある宿」として選ばれる時代
「安さ」ではリピーターは生まれない
旅行予約サイト(OTA)で価格を比較し、最安値の宿を選ぶ──。
そんな行動パターンはもはや過去のものになりつつあります。
コロナ禍を経て顧客の価値観は変化しました。
「とにかく安く泊まりたい」よりも、「安心できる」「特別感がある」「心が動く」
といった感情的価値に対して、お金を払う層が明確に増えています。
つまり、これからの宿泊業に求められるのは、
“金額を上げても納得される理由”を設計することです。
宿泊単価を上げる“価値設計”の3つの方向性
価格を上げるためには、まず“上げる理由”をつくる必要があります。
ここでは成功している宿に共通する3つの方向性を紹介します。
① 「体験価値」を組み込んだプラン設計
宿泊という行為そのものに“体験”を付加することで、単価を自然に上げられます。
例:
- 地元食材の朝食づくり体験
- 夜の星空観察ガイド付きプラン
- 大浴場でのアロマ入浴・ハーブ湯体験
- お子様の浴衣着付け&写真撮影付き
これらはコストを大きくかけずに「特別感」を生む仕掛けです。
“泊まる”から“楽しむ”へ。顧客体験の再設計こそが最強の値上げ施策になります。
② 「パーソナル化されたおもてなし」の明示
単価が上がっても選ばれる宿の多くは、「あなたのための体験」を打ち出しています。
例:
- 「お食事は苦手な食材を事前ヒアリングしてご用意」
- 「お部屋に記念日メッセージを準備」
- 「チェックイン時間を柔軟に調整可能」
こうした“小さな特別対応”を事前に伝えるだけで、宿の印象は劇的に変わります。
「値段が高い」ではなく、「この宿は私のことを覚えてくれている」と感じたとき、
お客様は価格より“信頼”で選ぶようになるのです。
③ 「ストーリー」で価格を正当化する
単価を上げる際、最も重要なのは「納得感」。
宿の価格を上げるとき、単に「原材料が上がったので」と伝えるよりも、
「この宿の価値はこうして作られている」という物語を発信する方が圧倒的に響きます。
例:
- 「女将が毎朝市場で選ぶ旬の魚」
- 「地元陶芸家の器で味わう特別な朝食」
- 「築100年の梁を活かした客室」
SNS・公式サイト・予約ページなどでこうした“裏側の努力”を見せることで、
お客様は価格=体験への期待値として捉えます。
成功事例:単価1万円の壁を突破した宿の実例
事例①:長野県・温泉旅館
課題:
平日単価9,800円で稼働率は高いが、利益率が低迷。
施策:
- 「地元食材でつくる囲炉裏朝食体験」プランを導入(+1,500円)
- 宿泊者に“体験動画”をプレゼント
- SNSで「体験できる宿」としてブランディング
結果:
平均単価12,300円に上昇し、リピーター率が27%増。
「泊まるだけでなく思い出を作れる宿」としてメディア取材も。
事例②:島根県・古民家宿
課題:
客単価9,000円前後。値上げに抵抗感が強い常連が多かった。
施策:
- 「季節ごとに変わる一棟貸しアート展示」プランを追加
- 価格を11,000円に上げる代わりに、地域作家の作品を展示・販売
- 宿のストーリーをHPで発信
結果:
宿泊単価+25%、予約数も維持。
アートと宿を融合した「滞在型ギャラリー」として注目を集めた。
事例③:京都府・町家宿
課題:
OTA経由での予約比率が高く、価格競争に巻き込まれていた。
施策:
- 公式サイト限定で「特別朝食付きプラン」販売
- ChatGPTでレビュー分析し、「静寂」「癒し」「居心地」を強調
- SNSで「1日3組限定・静けさの宿」と発信
結果:
公式サイト予約比率が45%に上昇。平均単価12,800円を維持。
宿泊単価アップを実現するプラン設計の5ステップ
1. 現状分析:単価の「根拠」を把握する
まず、自宿の「平均単価」「利益率」「原価構造」を明確に。
“値上げしても利益が上がらない構造”を可視化することが第一歩です。
2. ターゲットの再定義
すべての客層に値上げを通すのは困難。
「誰に価値を感じてもらいたいか」を絞り込みましょう。
例:
- “静かな時間を求める大人”
- “地域文化を体験したい外国人”
- “料理を重視するカップル層”
3. プランの価値要素を言語化する
宿の“強み”をプラン名・説明文・写真で伝える構成にします。
例:「地元食材を五感で味わう里山の一夜」「女将が選ぶ特別朝食プラン」
これだけで「他と違う」印象を強められます。
4. 価格設定は“心理的ライン”を意識する
宿泊単価は「9,800円→11,000円」というわずかな差でも印象が変わります。
「10,000円を超える心理的抵抗」を和らげるためには、
プラン名や体験内容に“特別感”を添えるのが効果的です。
❌「値上げしました」
✅「特別な時間をお約束する新プランをご用意しました」
5. データと感情をもとに改善を続ける
AIやレビュー分析を活用し、「お客様が何に価値を感じたか」を可視化します。
感情データをもとにプランをアップデートすれば、継続的な単価向上が可能です。
“価格”から“価値”へ:これからの宿泊業の成長軸
かつて宿泊業の競争軸は「立地」と「価格」でした。
しかし今、お客様が選ぶ基準は明確に変わっています。
「この宿に泊まると、どんな体験ができるか?」
価格ではなく、感情が宿を選ぶ時代。
だからこそ、宿泊単価を上げることは“値上げ”ではなく“信頼の再定義”なのです。
- 体験価値を高める
- おもてなしをパーソナル化する
- 物語で価格を正当化する
これらを一つずつ積み重ねた宿は、
「高いけれどまた泊まりたい」と言われる存在へと変わります。
まとめ:単価アップは「勇気」ではなく「設計」
1万円の壁を越えるのに必要なのは、勇気ではありません。
それは、“宿の価値を設計し直す力”です。
✅ お客様が“感情的に納得する理由”をつくる
✅ プランに“特別な体験”を組み込む
✅ ストーリーとデータで価格を裏付ける
価格競争を抜け出す宿は、“値段を上げた宿”ではなく、
“価値を伝えた宿”です。
「価格」ではなく「体験」で選ばれる宿へ。
それこそが、宿泊業がこれから生き残るための最強の戦略です。
この記事へのコメントはありません。