客単価を上げる「滞在中の体験設計」館内回遊・アクティビティ・食事体験の最適化
滞在中の“3時間”が、客単価を決める
多くの宿泊施設が「稼働率」や「客室単価」をKPIに掲げますが、
実際に利益を左右しているのは、宿泊の“中身”、すなわち滞在中の体験時間です。
チェックインからチェックアウトまでの間、
お客様が「どれだけ感動し」「どれだけ館内で消費するか」。
そのわずか数時間の設計こそが、客単価を引き上げる最大のカギなのです。
観光庁の調査(2024年)では、滞在中の体験(館内・地域含む)に参加した宿泊者は、
平均消費単価が1.8倍に上昇していることがわかっています。
にもかかわらず、現場ではこうした声をよく耳にします。
「夕食と朝食以外に、特にやることがない」
「チェックイン後は部屋にこもるお客様が多い」
「館内での過ごし方を提案できていない」
つまり、“宿泊”は売れていても、“滞在体験”は設計されていないのです。
本記事では、滞在中の体験価値を高め、
顧客満足度と客単価を同時に上げるための「体験設計の型」を体系的に解説します。
“体験設計”とは何か
単に「オプションを増やす」ことではありません。
滞在体験の設計とは、お客様の滞在動線を意図的にデザインすることです。
つまり、
いつ、どこで、何を見て、どう感じて、どんな言葉を残すか。
この一連の“体験の流れ”を宿側が設計し、
お客様が自然に感動体験へと導かれるようにすることが「体験設計」です。
それは、マーケティングでいう「カスタマージャーニー」を、
宿泊というリアル空間で再現する行為に他なりません。
滞在中の体験をデザインする3つの要素
館内回遊:動線設計で“滞在の深さ”をつくる
館内回遊とは、宿内でお客様が自然に動きたくなる仕掛けを設け、
“滞在時間”を“滞在体験”に変える設計です。
1. “歩きたくなる導線”をつくる
- 廊下や階段の途中に「小さな発見」を配置
- 地元アート・季節の装飾・手書きの案内など、感情を動かす工夫を施す
例:
「この先に足湯がございます」ではなく、
「地元の湧水で温めた“里の足湯”へどうぞ」
文章ひとつで動線は変わります。
2. 「滞在体験マップ」を設置
チェックイン時に“滞在の楽しみ方”を提案できるマップを渡すことで、
館内の活用率が大幅に上がります。
💡例:「滞在のすすめ」カード
15:00 チェックイン → 16:00 足湯 → 17:00 地酒試飲 → 18:00 夕食 → 20:00 星空テラス
動線をデザインすることは、売上をデザインすることです。
アクティビティ:宿独自の“テーマ体験”を生み出す
滞在体験を語る上で欠かせないのが「アクティビティ」。
ポイントは、「地域でできる体験」ではなく、
“宿だからできる体験”をつくることです。
1. 館内×地域の掛け算で差別化
たとえば、温泉地なら「湯守体験」、
里山なら「朝の田畑散歩ツアー」、
古民家なら「囲炉裏で淹れる珈琲ワークショップ」。
どれも特別な設備は不要です。
大切なのは、宿の“物語”と一貫する体験を設計すること。
例:
- 「湯宿」なら“湯の文化”を感じる体験
- 「山の宿」なら“自然のリズム”を味わう体験
- 「町家宿」なら“暮らしを体験”できる時間
体験のテーマを「宿の個性」と一致させると、
“単なるアクティビティ”が“ブランド体験”に変わります。
2. 参加ハードルを下げる仕組みづくり
「別料金」「予約制」「外出」などの条件が多いと、参加率は下がります。
→ 解決策:
- 無料のショート体験を常設(10分でできる体験)
- スタッフが声かけして“巻き込み型”にする
- チェックイン時に選択肢として提示
“体験”を“選択”ではなく“自然な流れ”に組み込むのが理想です。
食事体験:料理を“時間と物語”で味わってもらう
食事は最も直接的に客単価に影響します。
しかし「品数」や「高級食材」だけで満足度を上げることはできません。
今の旅行者が求めているのは、「味」よりも「体験」です。
1. “味覚”よりも“五感”で記憶に残す
例:
- 料理長が目の前で盛り付ける「ライブダイニング」
- 地元陶芸家の器を使用し、“器の物語”を伝える
- 香り演出(炭火・木の香・出汁の湯気)で臨場感を出す
こうした「五感設計」は、1人あたり+2,000〜3,000円の価値を自然に生みます。
2. “地産地消”を“ストーリー化”する
「地元の野菜を使っています」ではなく、
「この人参は、朝に隣町の農家が採ってくれたものです」
背景を伝えることで、“料理”が“記憶”に変わります。
顧客は味を忘れても、感情の動いたストーリーは覚えているのです。
滞在中体験を収益化する仕組み
体験を導入しても、「収益化の仕組み」がなければ意味がありません。
ここでは、実際に客単価アップに成功した宿が実践する3つの方法を紹介します。
1. “体験付き宿泊プラン”で販売する
体験をオプションではなく、プランに組み込むことで、自然に単価を上げられます。
例:
- 「星空観察&地酒セットプラン」
- 「陶芸体験+夕食付き滞在プラン」
- 「地元野菜を味わう朝食体験プラン」
OTAでも「限定体験付き」と表記するだけでクリック率が上がり、
価格比較に左右されにくくなります。
2. “無料体験”をリピート導線に使う
無料体験は「お試し」としてリピート導線を作る最適な方法。
例:
- 無料の「朝コーヒー焙煎体験」→お土産として豆販売
- 無料「お写ん歩ガイド」→次回“写真講座付きプラン”へ誘導
無料は「利益ゼロ」ではなく、「次への投資」です。
3. “顧客の行動データ”を次の設計に活かす
どの体験が人気か、どの時間帯に参加が多いか。
AIやCRM(顧客管理システム)を使えば、次回のプラン設計が精度高くなります。
💡ChatGPTなどのAI分析を使えば:
「レビューから体験に関するポジティブワードを抽出」→
“お客様の心に響いた要素”を見える化。
実例:滞在体験で客単価を引き上げた宿
事例①:新潟県・温泉旅館
課題:単価9,000円、稼働率は高いが利益率が低迷。
施策:館内回遊を強化。足湯・ライブラリー・地酒Barを順路化。
結果:平均滞在時間+1.2時間、客単価+2,400円。
事例②:長野県・山宿
課題:観光地立地で、館内滞在率が低い。
施策:「夜の焚き火カフェ」「朝の森ヨガ」など宿内アクティビティを導入。
結果:リピート率+20%、宿泊単価+3,000円。
事例③:広島県・古民家宿
課題:素泊まり中心で単価7,000円。
施策:囲炉裏での“炊き立てごはん体験”を導入(+1,500円)。
結果:口コミ4.8、単価+25%。食事体験がブランド化。
滞在体験設計を成功させる3つのポイント
1. “体験の目的”を明確にする
❌「何か楽しいことを提供したい」
✅「この体験でお客様の〇〇な気持ちを動かしたい」
体験設計の目的を「感情」で定義すると、内容がブレません。
2. スタッフ全員で共有する
現場スタッフが体験の意図を理解していないと、お客様に伝わりません。
ミーティングで“体験の背景”を共有することで、接客の一貫性が生まれます。
3. デザイン×データの両輪で改善する
「どの体験が感動を生んだか」をデータで見ながら、次の体験を磨く。
これが、滞在体験を“文化”として根付かせる経営です。
まとめ:“滞在時間”は、最も伸びしろのある売上資産
滞在体験の設計は、単なるサービス拡充ではありません。
それは、お客様の時間価値を最大化し、宿のブランドを高める経営戦略です。
✅ 館内の動線を“回遊体験”として設計
✅ “宿の物語”を体験として提供
✅ 食事を“記憶に残る演出”で再構築
宿泊単価を上げる最短ルートは、値上げではなく滞在価値を上げること。
そして、その滞在時間こそが、
あなたの宿にしか生み出せない“物語”の舞台なのです。
この記事へのコメントはありません。